夜、ママが事務所兼自宅に帰ってきた。
「お父さんがやっていた頃に比べたら、仕事、減ったよね」
あまり予定の埋まっていないノートを眺めると、ママが、はぁっとため息を吐く。
「営業かけているんだけどね。なかなか、上手くいかないわ」
「私も営業するよ」
「あんたは、ダンプ乗ってくれるだけで十分。若い子が行ったら、スケベじじいの餌食になっちゃう」
「平気だよ。おっさんたち、あしらうのも使うのも上手いんだよ、私。今日、営業向きだって言われたし」
「誰に」
作業着からジャージに着替えたママが、私に振り向く。
「それがさ、ママ。すごいイケメンと出会ったの。思わず、ご飯行こうって誘っちゃった」
「あんだが、誘ったの?」
興奮気味に話す私に、ママはビックリした顔で聞いた。
「うん」
「へぇ。珍しいこともあるものね。で、落ちたの?」
私は、両手を広げ、首を横に大きく振った。
「それが、全然。相手にされてないって感じ、名前も教えてもらえなかった」