「チッ」と軽く舌打ちしたユキ君、私を解放すると渋々腰を上げた。
「ったく、世話を焼かせるな。いつまで学生気分でいるつもりだ。そろそろ社会人だと自覚してくれ」
「言われなくても分かってるよ」
ふて腐れた顔で言い返すユキ君。どう見ても大人の態度ではない。
「分かっていないから言われているんだろ。もういい。時間がないんだ、行くぞ」
真理さんは犯人を連行するかのように、ユキ君の腕を掴んだままエレベーターホールへ歩いて行く。何が起きたのか全く分からず、暫く呆然としていると。
「はぁ、やっぱり真理さんが一番だわ」
「どうして結婚しているのかしら」
「不倫でもいい」
「私も連行してほしい」
さっきまで目をつり上げて、ユキ君を囲んで騒いでいたくせに。真理さんが現れた途端、あの態度。夢見る乙女の眼差しで真理さんを見つめて。まぁ、確かに真理さんは素敵だ。容姿端麗で、例えるなら童話の世界から飛び出してきた実写版王子様。それに比べてユキ君は・・・・。イケメンだけど、子供っぽいところが抜けきれていない感じ。あの体はすごく魅力的だけど。裸にして胸板にスリスリしたいくらいに。
それにしても・・・・。
「真理さんに向かって、あの態度は無いと思うんだけど・・・・」
三島さんが何か言いたそうな顔で私を見ている。
「だって、どう見ても真理さんの方が年上なのに、呼び捨てですよ、呼び捨て。しかも真理さんは社長の息子さんなのに」
「尾上さん、もしかして知らないの?ユキ君は・・・」
きょとんとしてしまった。聞き間違いかも。
「今、なんて言いました?」
「だからユキ君は、真理さんの弟だって言ったのよ」