結城産業の社長には三人の息子がいる。長男の真理さん。次男の薫さん。そして三男のユキ君。ユキは愛称で本当の名前は由紀(ヨシノリ)。
「ユキ君を落として結城家の一員になろうと、皆必死なのよ」
「どうしてですか」
「結婚したら玉の輿だもん。それに真理さんとも親しくなれるし」
「それが狙いなんですか」
三島さんたちの話を聞いて、ユキ君が気の毒に思えた。でもだからって、誤解はされたくない。ユキ君には悪いが「私は彼女じゃありません」とあの場でハッキリ宣言した。だって怖いお姉さま方に睨まれたくないもん。
「触らぬ神に祟りなし」
近寄らないのが一番だ。それに私の目的は、結婚相手を探すこと。
理想のタイプは・・・。
真理さんが、頭にぽんと浮かぶ。私は首を横に振った。
「理想的だけど、結婚しているからダメ。見ているだけで十分」
次に浮かんだのは、何故かユキ君。
「違う、あんたじゃない」
パタパタ頭の上で手を振り、ユキ君をかき消した。もっと理想的な男性がいるはずだ。例えば・・・・土方さんとか。
土方さん、いいじゃない。独身だって聞いたし、顔も良いし、おまけに部長だ。
「土方さん、理想的だよね」
同じフロアで上司ともなれば、これからいくらだってチャンスがあるはず。最初のチャンスは、歓迎会かな。隣に座って一緒にお酒飲んで・・・・。尾上、俺と二人っきりになれるところ行かないか。なんて誘われたらどうしよう。
「キャーッ、恥ずかしい」
「何が恥ずかしいのよ。パンツに穴でも空いていた?」
お母ちゃんの声にハッとした。手に持っているのは、私のパンツ。そうだ、洗濯物たたんでいたんだった。
「穴の空いたパンツなんて履いてないからっ」
ムッとしながらパンツを小さく折りたたむ。このパンツ、面接の時に履いていた・・・・。そう思ったら、またもやユキ君の顔がチラつく。ああ、もう消えて消えて。理想の相手は土方部長なんだから。
私は、顔を上げた。
「お母ちゃん。週末遅くなる。ご飯もいらないから。会社の人が私の歓迎会してくれるの」
第4章へ続く