とりあえず顔を洗わせてほしい。それからちゃんと化粧して。って、化粧ポーチ持参してたっけ?
キャンパスバッグをゴソゴソ。お泊りセットをチェックしてホッとする。
しかし、こうやって見るとユキ君の部屋って広いよね。ベッドはロングサイズのセミダブルだし。
出窓をのぞけば短くカットされた芝生の庭が見える。もう何軒か家が建てられるくらい広い。
大きな家に広い庭、なんとなく分かっていたけど、やっぱりうちとはえらい違いだな。
「レンガが積んであるけど、あれはなに?」
「ああバーベキューコンロだよ。親父が友だちや近所の人を誘ってよくやるんだ」
「ふーん。あれ? 庭に誰かいるよ」
黒のシャカシャカジャージ姿で、散水ホース手に水撒きしている。顔は見えないけど、もしかして。
「お父さん?」
ユキ君が私の隣へ来て、窓を開けた。
「ああ」
あの人が、ユキ君のお父さん。後姿を見ただけなのにビビッてしまう。だって怖いって噂しか聞かないんだもん。
うー、やっぱり怖気づくな。すごくドキドキして、掌に汗が滲んでいる。
「常識のない娘だ」とか「なにを考えているんだ」とかって叱られたらどうしよう。
ああっ、やっぱ無理、こっそり帰りたい。
「親父ーっ」
ユキ君が声を掛けると、お父さんがホース手に振り向いた。驚いたことに、笑っている。
信じられなくて、ガン見してしまった。
お父さんの第一印象は……似ていない、だった。
ユキ君や真理さんとは違ったタイプ。
強面だけど、若い頃はやんちゃしていたんだろうなって感じの、渋いイケメン。
ひゃーっ、カッコいい。
「やっと起きたか」
うきゃーっ、声まで渋いとか、やばくない?