「あっ、あの、汚れますから。スーツだし。私、自分でやれます」
ぼーっと見惚れていた私が、我に返って声を掛けた時には、すでにスペアタイヤに交換されていた。
つーか、早くない? 何者だろう。
「ありがとうございました。手際が良いですね。もしかして、サーキットレースの整備士さんとか?」
アホなことを言ってしまった。
イケメンさんは、プッとふき出して。
「ははは、そんな事、言われたの初めてだ。残念だけど、ただの営業マンだよ」
「すみません、あんまり手際が良かったから。あの、ほんと助かりました」
「どういたしまして。じゃあ、気をつけてね」
イケメンさんは、爽やかな笑顔を残してその場を立ち去ろうとする。
「ちょっと待った」
言うが早いか掴みが早いか、イケメンさんの腕に手を掛けて引き止めてしまった。
少し驚いて振り返ったイケメンさんに向かって。
「お礼、させてください」
まさかの行動に自分でも驚いた。でもイケメンさんはあまり驚いていない。
側の自販機を指差して「じゃあ、水でいいよ」なんて言う。
「水じゃなくて」
「じゃあ、その隣のお茶で」
「違うって。ご飯行こう。私、昼まだだから、一緒に行こう。おごるから」