見知らぬ相手を誘うなんて、生まれて初めてで、めちゃくちゃ勇気がいった。
でも、このままお別れしてしまったら、もう会えない、そう思ったら引き止めずにはいられなかった。
「悪いけど俺」
「お願い、このままサヨナラしたくない。私の排気ブレーキが鳴ったの」
「排気ブレーキ?」
チャンスの神様は、前髪しかない。
だから、迷っていたら逃がしてしまう、って誰かに教わった。
私は彼を見て、神様の髪を引っこ抜いてでも掴かまなきゃって思ったんだ。
「強引だね」
「だめ、ですか」
イケメンさんは少し困った顔で、チラッと視線を横に向ける。
「そこのラーメンでいいかな。あまり時間がないんだ」
自販機の隣に見えるラーメン来来軒の暖簾。風でパタパタなびいている。
話せるならもうどこでもいい。
嬉しくて、元気いっぱい返事した。
「はい」