「待ってよ、ユキ君。話が違う」
「違う? どこが?」
「ちょっと来て」
私はユキ君の腕を引っ張り、外へ連れ出した。
腕を組み、指でこめかみを押さえ。
「同棲するんじゃなかったの? なんでいきなり結婚?」
「同棲させてくださいって頼むより、結婚させてくださいって言う方がいいかなって思ったから」
「何その軽いノリ」
「軽くはないぞ。真面目だぞ。何が気に入らないんだよ」
「気に入らないよ」
思わず声を張り上げてしまった。
だって、だって、私、まだ。
「プロポーズしてもらってないっ」
だけどユキ君は、ケロッとした顔で。
「したろ」
すっとぼけたことを言うではないか。いくら私でも、プロポーズされていたら覚えているわいっ。
「してないっ」
「予約しただろ」
「予約?」
はて、思い当たらないんですけど。首を傾げる私の肩にユキ君の両手が乗った。
「忘れられていたのかぁ、そうかぁ、寂しいな。俺の扱い、そんなもんかぁ」なんて言われても。
記憶ないし。
「初めて旅行した日、俺がデキ婚でもいいって言ったの覚えてない?」
デキ婚?
割り勘でもめた時にそんな話が出たっけ……。
「あれがプロポーズ?」