日曜日、店が終わり暖簾を下げていると、ユキ君がこっちへ向かって歩いてくるのが見えた。
えっ、ス、スーツ?
「そんなかしこまらなくても」
「何言ってんだよ、さすがに普段着はマズイだろ」
「そ、そうか」
思わず、自分の服をチェック。
汚れたエプロンは外すとして。
「トレーナーとジーパンは着替えた方がいいのかな」
「どっちでもいいよ」
「えっ、自分だけスーツって。あっ、ユキ君っ」
ユキ君は私を置いて、さっさと店内へ入って行ってしまった。
スーツなんかで来られたら、さすがにお母ちゃんも勘づくんじゃない?
私はガラス扉の外から、中の様子をそっと伺うことにした。
「こんにちは」
「あら、ユキ君。久しぶりね、もしかして仕事だったの? ネクタイなんてしめちゃって。いい男は何着ても似合うわね」
「ありがとうございます」
仕事だと思ったのか。
お母ちゃんの調子の良い声とユキ君の笑い声が、外まで聞こえている。