指輪を見せてください、ユキ君が言うと店員さんはスマイルで、どんなデザインがお好みでしょうか、とガラスケースの鍵を開けた。
「俺も着けるからシンプルなのがいいな」
「ユキ君も?」
ちょっと驚いてしまった。だって意外だったから。
「前の俺なら死んでも着けねぇと思うだろうな。束縛されてるって言うか、首輪はめられているみたいだろ」
「それなのに?」
「指輪してれば、決まった相手がいるって分かるからな」
「モテる人は、大変だね?」
嫌味っぽくとられたかな? チラッと横目で見上げると、眉をしかめているユキ君の顔が見えた。
「ホント、面倒なんだよな。結婚してるって思ってくれた方が助かる」
うーん、モテる苦労は、あまり共感できないけど、ほんとうにたいへんなんだ。本人はあまり嬉しくないらしい。
「こちらのペアリングは、如何ですか? あとは、こちらも人気です」
チョイスされた指輪がケースの上に並ぶ。
「舞、どう?」
どう? と聞かれても、正直よく分からない。
だってアクセサリーなんて、今まで身につけたことがないし。返事に困っていると。
「ちょっと、はめてみて」
プラチナの指輪に小さなダイヤの粒が、キラキラ。こんな小さなアクセサリーなのに、目を奪われて。まるで魔法をかけられたみたい。
ほぅと甘いため息まで零れてしまう。
「綺麗」
「じゃあ、これにする?」
幾らするんだろう? タグを見てビックリ、十九万円?
高っ! 一桁違う。慌てて指輪を外した。魔法が消えた瞬間だった。