田口さんが会社を出る前に電話で席の予約とタクシーを呼んでくれた。
タクシーで十五分、大通りから一本中筋入った所に並ぶ店、その一軒にもつ鍋屋「大ちゃん」の赤い暖簾が下がっていて。
「何だ、ここか」
「ご存じですか?」
田口さんが尋ねると、土方さんは三軒隣の鮨屋を顎で指す。
「いや、向こうの鮨屋に何度か来た事があってな」
「回ってないお鮨屋さん?いいなぁ」
「今度、連れて行ってやるよ」
私と田口さんは、やったねと互いの手をパチンと合わせた。
暖簾を潜り、ガラッと引き戸を開けるとほぼ満席、賑わっている。それにもつ鍋のいい匂い、それだけでビールが飲みたくなる。
「らっしゃい」
気持ち良いほどの活気だ。
「さっき電話した田口です」
「どうぞ。もう、鍋も準備してますよ」
テーブルに用意されたもつ鍋。スライストマトがぐるりと脇をかため、水菜が上からこんもり盛られている。
もつ鍋は食べたことあるけど、トマトクリームは初めて。どんな味なんだろう、期待感いっぱいで席へ着く。
とりあえず生中と言う部長に、私も田口さんも手を挙げた。
「生、三つですね」
スタッフがおしぼりを配りながら、鍋の説明。
「弱火にしていますが、焦げやすいので底の方を時々混ぜて下さい」
このてんこもりの鍋を混ぜろと?
「しめは、パスタかリゾットがお勧めです」
「へえ」