彼にとって異動はそんな大したことじゃないのか。
公園で一緒に珈琲飲んだり、食堂でランチしたりすることも出来なくなるのに。
そりゃあね、出勤前に公園で珈琲飲むのだってランチだって、週に一回か二回あるかないかだし、会えなくなるって言っても会社だけの話だよ。
だけど、だとしてもだよ。言わないってのは、無しでしょう。
一応、私、彼女なわけだし。大したことじゃなくても、一言くらいはあってもいいんじゃない?
私は、温くなったココアを飲み干し一呼吸。
よし、ここは自分の気持ちをハッキリ言っておこう。
「舞、着いてるぞ」
私の唇の端っこに着いたココアをユキ君が指先で拭ってペロリ。
うきゃっ、舐めちゃったよ。
おまけに、にっこり微笑んで。うきゅーん。ほんと可愛いなぁ、もう。こてんと彼の肩に頭をもたせかける。
指先からめて、いちゃいちゃ。ユキ君の大きな手、大好き。
はっ、メロメロになっている場合か。
「ユキ君、あのね」
言いかけたところでユキ君が腕時計をチラリ。
「そろそろ帰るか。明日も仕事だし」
立ち上がってコートを手にする。
「う、うん」
ううっ、言わせてもらえなかったよ。