海遊館の年パスを持ってると言われ、ちょっと驚いた。USJは聞いたことがあるけど、水族館にも年間パスがあるんだ、知らなかった。
「私なんて水族館も初めてなのに」
「ええっ、そうなのか」
逆に驚かれてしまった。
「小学校の修学旅行先、伊勢神宮と鳥羽水族館だったんだけど、熱出して行けなかったし。テレビの特番で白浜アドベンチャーのイルカショーを見たくらいかな」
父親が生きていた頃は定休日もなく、家族揃って出掛けるなんて皆無だった。父親が亡くなってからは、母親が一人で店を切り盛りしていたので、私も兄貴も自然と店を手伝うようになって、どこかへ連れて行ってなんて言えなくて。
「じゃあ、初水族館?」
「だからすごく楽しみ」
ユキ君が、ニコッと笑って私の頭をくしゃっと撫でる。
「じゃあ、たくさん楽しもうな」
「うん」
休日の海遊館、想像以上に人が多かった。ファミリーが多い、そしてその次がカップル。
「連休だから、やっぱめっちゃ混んでるな」
「うん、すごいね」
すっぽりと私の手を包む大きな手、思わずユキ君を見上げる。
「デートだから、いいだろ」
「手だけ、だからね」
「キスは?」
「あるわけないでしょうっ」
「舞には、貸しがあるんだけどな」
ううっ、痛いところをつきやがって。じっとりユキ君を睨む。
「そんな顔してると、本当にキスするぞ」
「なっ」
「嫌ならニコニコしとけよ」
「ううっ」
「ほら、行くぞ」