商談フロアーに到着してすぐトイレへ駆け込んだ。
ううっ、恋人でもない男にパンツ見られた。こんなかっこうじゃ、恥ずかしくて人前に出られないよ。
「終わった、面接受ける前に落ちた」
会社の前へタクシー呼んで帰ろう。トイレから出た私はカバンからスマホを取り出した。
「なぁ」
イケメン、まだいたの?そんなことより。
「ああ・・・。絶対、お母ちゃんにアホにされる」
「なぁって」
「せっかく会社員になるチャンスだったのに・・・ううっ」
「おいっ」
「煩いなぁ。私は落ち込んでるの、見て分からない?いいからあっち行って」
邪魔しないでよ。シャーッと興奮した猫のように威嚇。
「面接受けないのか」
「このかっこうで?約束の時間も過ぎてるし」
「前だけ見せてりゃバレないって」
イケメンは私からスマホを取り上げた。
「何すんの」
「連絡先の交換」
戻ってきたスマホを見ると見知らぬ連絡先が追加されている。
『ユキ』この人、ユキって名前なの?
そして今度は私の手首を掴んだかと思ったら、どこかへ引っ張って行こうとする。
「ちょっと、待って。どこへ行くのよ」
引きずられるように歩くと、エレベーターホールの前。
「ユキ、こんなところで何やってんだ」
これまたイケメンが登場。この会社は顔で選ぶのか?
「土方さんこそ、どうしたんですか」
「今から面接なんだよ」
イケメンは私の両肩に腕をかけ、私を押し出した。
「ちょうど良かった。面接するの彼女です」
土方部長の視線が私に向けられる。切れ長の鋭い目つきがちょっと怖い。ハッとした私は頭を下げ、挨拶。
「お、尾上舞です。宜しくお願いします」
「ついてきて」
ここまで来てしまったら、もう引き返せない。
黒いバックでヒップを隠しながら、足早に歩く土方部長に着いて行った。