「ヒナちゃん? どうかした?」
正人さんの声で我に返った私は、恥ずかしくてこの場から逃げ出したくなった。
うつむき加減でウサギさんを横目で睨む。
ウサギさんは口元に笑みを浮かばせながら天井に張られた空調設備に目を向ける。
「確かに、顔が赤いな。暖房効き過ぎてる?」
「分かった。裕也のせいだろ」
「えっ?」
言い当てられて、ドキッとした。
紅茶を飲んで落ち着こうとカップへ手を伸ばす。
「見惚れていたんだ」
「えっ」
自信満々に的外れなことを言われ、一瞬、呆けてしまった。
正人さんは腕を組み、一人納得したように頷いている。
「分かるよ、分かる。裕也にかかれば、大抵の女は……痛っ」
「悪い、足が長くて」
「ったく、都合の悪いことを言われると、すぐううっ……」
「正人、いつまでデートの邪魔をするつもりなんだ。寂しいならお前も特定の恋人作れよ」
「なんだよ。自分だって少し前まで俺と同じ不特定多……痛―っ。今、本気で痛かったぞ。本気で蹴っただろ」
ウサギさんはニッコリ笑って、紙のナプキンを丸めると正人さんの頭に投げつけた。