「お前はいいよな、単純で。好きだって感情だけで行動できるんだから」
土方さんの嫌味を鼻で笑い。
「あんたが複雑に考え過ぎてんだよ。事情は分からねぇけど、たまには自分の感情に素直になったらどうだ?」
なるほどね、と土方さんは頷き。
「お前が、羨ましいよ」
店を出て行った。
「結局、よく分からないままなんだけど」
「ほっとけよ。相談なんてのは大抵、自分の中に答えを持っていて、誰かに肯定してほしいだけなんだから」
そういうものなの?
「ところで、舞ちゃん。俺も相談。つーか、考えて欲しいことがあるんだけど」
ユキ君はこっちへ来てと手招き。何だろう、ホールへ出た私をユキ君が待ち構えていて、ギュッーと強く抱きしめてきた。
「ユキ君?」
「俺と一緒に暮らさないか?」
「えっ」
「今すぐって話じゃなくて、来年の春くらいの予定なんだけど」
それって、つまり。
「同棲?」
うひゃーっ、同棲なんてしたら、ユキ君の体を毎日、触りたい放題、出血大サービスってことだよね。
「以前からS市にある生コン工場を買い取ってくれって話があって、それが今日、決定した。で、そこを俺が担当することになった。これから色々手続きして、実際に工場を動かすことになるのは半年くらい先になると思う。実家から通うのも大変だし、工場の近くに部屋を借りるよ」
「S市って・・・通えないの?」
「工場は本社と違って、朝が早いからな。車通勤も経費が掛かるし、何より早起きがあんま得意じゃねぇし。異動の話をなかなか言い出せなかったのは、この件もあったからなんだ」
だから北工場の異動は大したことないって言ったの?
突然過ぎて、頭が回らない。店のこともお母ちゃんのこともある。すぐに答えなんて出せない。
「少し・・・・・考えさせて」