電話を切った後も俺たちは水族館を満喫した。舞は何を見ても面白いのか、よく笑う。でもよ、もうちょっとデートだって意識してくれてもいいんだけどな。
「ユキ君、オオサンショウウオがいるんだって。どこだろ」
水中の生き物に夢中。これくらい俺の事も夢中になってほしい。
「よく分かんないね。ユキ君、ねぇユキ君たら。ちゃんと探してよ。特別天然記念物なんだよ。そう滅多に会えないんだから」
「探してるよ」
「嘘ばっかり。全然、水槽見てないじゃない」
俺は舞の肩を抱き寄せ、にっこり笑って。
「舞を見てた」
おっ、このセリフ、結構有効かも。
「そんなのいいから、水層見て」
ガックリ。小さなため息を零す。俺って、そんなの扱いなの?まさか、オオサンショウウオに負けてる?くそっ、天然記念物がなんだってんだ。
「なぁ、本当にデートだって分かってるか」
「分かってるよ。これがデートじゃなきゃ、何になるの?」
「・・・だな」
ちっ、しょうがねぇな。
「ほら、あそこにいるだろ。よーく見てみろ」
岩場の陰でじっとしているオオサンショウウオに向かって指さす。舞は驚いた表情、目を丸くさせ。
「デカッ。ちょっとイメージと違う」
残念そうに言った。ふっ、この勝負、俺の勝ちだな。
「次、行く?」
「うん」
場所を移動、メインの水槽へ行ってみた。アクリルガラスに張りつくように皆が注目しているのは、水槽の中で魚に餌をやっているダイバー。
「人が多くて見えない」
「少し待ってると空くよ。後ろで待ってよう」
壁際に舞を連れて行った。
「やっぱり、もっと前に行こうよ」
戻ろうとする舞をつかまえ。
「舞」
「えっ」
顔を上げるところを狙って素早くキスをする。唇を軽くかすめた程度。
「ユ、ユキ君」
恥ずかしそうに俯く舞の仕草が、たまらないほど可愛くて。
「皆、水層見てるから平気だって」
顎に手を置いて、もう一度キスをした。今度はもう少し長く。
ヤバいな。夜まで俺の理性が持つか、自信ねぇな。部屋に入った途端、襲っちまいそうだ。