お兄ちゃんはスポンジに洗剤を噴きつけると洗い物を始めた。慣れた手つきでどんどん片付けていく。
「就職して、会社と店のかけ持ちは大変だろ。彼氏も出来たって話だし」
「だから、なに」
「来週末は、俺が店に出るよ」
兄の嬉しい言葉を聞いた三十分後、私は体育館を目指していた。
電車の中で決勝戦まで勝ち進んだことをLINEトークで知り、まだ間に合いますようにと祈った。広い公園を通り抜ければもうすぐ体育館だ。
体育館の入り口からきょろきょろ彼の姿を探す。誰も彼もがジャージ姿、しかも大きな人ばかり。どこにいるんだろう。まるでウォーリーの絵本だ。本物はどれ?
ふわっと後ろから抱きしめられドキンッと心臓が跳ねる。振り向くと眩しいほどの笑顔が目に飛び込んできた。
「舞ーっ、来てくれたんだ」
正面に向き直った私のほっぺに自分のほっぺをくっつけてすりすり。
「すげぇ、嬉しい」
「遅くなってごめんね」
「迷わなかったか」
「大丈夫だったよ。試合は?」
「もうすぐ始まる」
良かった、間に合った。
「おーい、ユキ。そろそろ試合が始まるぞ」
鷹羽さんに呼ばれ、繋いでいた手を解く。また後でと言う彼を呼び止めた。
「あのね、ユキ君」
「ん?」
「来週末、お兄ちゃんが店に出てくれるから、お休みなの。もしユキ君も空いてたら、二人でどこか行かない?」
ぼーっとした後、我に返って満面の笑み。めちゃくちゃ可愛い。
「舞のためにゴール決めるから」