頬を撫でる風が昨日より少し冷たい。
仕事や通学で駅へ向かう人たち、自転車に乗った人が私を追い越し、駐輪所へ入って行く。駅前では、待ち合わせしている高校生やタバコを吸う人たちがいて。代わり映えしない風景を目にしながら改札口を通り抜け、階段を上り、ホームへ。録画した映画を観て夜更ししていたので、寝不足気味。化粧のノリが悪い。今夜は早く寝よう、なんて思いながら欠伸をかみ殺す。
「ん?」
私は足をとめた。予期せぬ人物がいる。しかも周囲の女性の視線を独り占め。
「舞」
飼い主を見つけたでっかい犬みたいに真っすぐこちらへ向かって来るではないか。
「おはよう」
朝日より眩しく、秋風より爽やかな笑顔。目にも心にも染みる。
「おはよう・・・・」
俯き加減で挨拶を返すと、ユキ君が私との距離を縮めようと足を一歩前へ出した。彼との距離を保つため半歩、もう半歩、下がる。
「まだ・・・怒ってるのか?」
お伺いを立てるような目に、思わず胸キュン。こんな大きいのに、可愛いと思わせるなんて。
「別に、もう怒ってないよ」
素っ気なく言って、ユキ君を見上げた。
「でも、こういうのはもうやめて」
ユキ君が首を傾げる。
「だから、待ち伏せしたり、食堂で隣に座ったり、とにかく私に近寄らないで」
「何で?」
「な、何でって。・・・・彼女がいるからに決まってるでしょう」
そんなことも分からないの?私は口を尖らせる。
「彼女がいたら、会社の同僚と一緒に通勤するのもダメなのか?」
偶然、同じ車両に乗り合わせたのなら、ありだけど。そう思ったが口にはせず、私はユキ君に背を向けて電車を待つ列に並んだ。