恋の時間ですよ 第2章 年下のくせに

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暖簾を潜り、店のガラス引き戸を開け、中に入るとお母ちゃんが鉄板の前で焼きそばを作っていた。忙しかったのか、テーブルもまだ片付けていない。

「お、舞ちゃん、試験受けてきたんだって?」

カウンター席にいた常連客の一人が振り返って声を掛けてきた。三軒隣で池谷楽器店を構える池谷のおじさんだ。店は息子さんに譲り、フォークギター教室とバンド活動をしている。今日はバンド『OSSOUNDS』のメンバー二人と一緒。高校の同級生らしい。

池谷さんの右隣で爪楊枝を口に咥えているのがドラム担当の古市さん、いつもチェックのシャツにジーパン姿で正直ダサいんだけど、本職はフリーのインテリアデザイナー。

左隣に座って常温水を飲んでいるのはベース担当で歯科の中村先生。商店街の端っこに診療所を構え、奥さんと息子さんの三人で患者を診ている。ヴォーカルは中村先生の奥さん、美也子先生。普段は白衣を着て生真面目な雰囲気なのに、ステージに立てば厚化粧と花魁風に着崩した着物姿で色気たっぷりにハスキーボイスを披露。

「おっちゃん、試験じゃなくて面接だよ」

「面接、そうか、面接か。で、どうだった」

私は池谷さんに親指を立てて見せた。

「バッチリよ」

すると母がチラリ、私を見て。

「どうせ続きっこないよ」

鼻で笑った。

「何で決めつけるのよ。やってみないと分からないじゃない」

「一日中机の前に座って仕事するんだよ。あんたには向いてないって、私が保証するよ」

そんな保証いらんわい。

「心配しなくても、ちゃんと働くもん。それでいい男見つけて、恋愛結婚して、専業主婦するんだから」

鼻息荒く言い返せば、お母ちゃんは面白そうに笑みを浮かべ。

「へぇ、じゃあ結婚相手が見つかる前に会社辞めたら、この店を継いでもらうよ」

「望むところよ」

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