触らぬ神に祟りなし。
ユキ君には近寄らない。
と思っていたのに・・・・。
「パン食う?」
差し出された紙袋の中を見ると、きつね色した小さな丸い形のパンが四つ。朝食抜きだったからな、私は遠慮なく手を入れた。
「胡桃パンだ」
頂きますと言ってから、指でちぎって口に入れた。甘くて柔らかい生地とローストされた香ばしさが口の中で広がって。
「美味しい」
本当に美味しい。どこのパン屋さんだろう。隣で珈琲を飲むユキ君が私に向かって微笑む。朝日みたいにキラキラして、眩しい。
「お袋が聞いたら喜ぶよ」
「お母さんの手作り?」
「パンとケーキ焼くのが趣味なんだ」
へぇ、と思いながら胡桃パンを直視。そしてまた一口。早朝、人気のない公園のベンチ、イケメンと並んで手作りパンとカフェのミルクティー。そよそよと爽やかな秋風も心地良く感じる。公園のベンチで早朝デート・・・・。
違うっ、デートじゃない。
呼びだされたんだよ。朝早くから電話してきて。「下にいてる」なんて言われたら・・・・。
「気持ち良いな」
ユキ君はベンチの背もたれに肘を乗せ、足を組み、空を仰ぐ。横顔を見ると、どことなく真理さんに似ている気がした。
「ところで、用は何?」
ユキ君がきょとんとした顔で私を見つめている。
「用があって、朝からうちへ来たんじゃないの?」
「天気も良いし、公園で朝飯しようと思って、舞を誘っただけなんだけど」
カリッ。噛んだ胡桃が口の中で二つに割れた。もぐもぐ、ごっくん。温かいミルクティーと一緒にパンを飲み込んだ。