一月も半ば、ちょっとしたニュースが飛び込んできた。
「ちょっと、見てよ。林さんの腕」
「えっ」
ほっそりとした白い腕に、巻きついた時計。この冠マークは、まさかロレックス?
へぇ、と私は先輩の腕時計に顔を寄せる。淡いピンクの文字盤にシルバーのブレスレット、林さんによく似合っている。
「この人、婚約したんだよ。びっくりでしょう」
「婚約?彼氏いないって言ってたのに、いつの間に」
「でしょう。黙ってたのよ、ずるい女よね」
「だって言えないじゃない」
林さんは澄ました顔で言った。でもほんのり頬が赤い。
「同じ部署だもんね、ちょっと言いにくいか」
「同じ部署?」
「そう、平木君て言うんだけど。優しくて真面目で、三つ年下」
「もう、お喋りなんだから」
三島さんも自分のことみたいに、すごく嬉しそう。
「でもすごいですね。ロレックスなんて」
「婚約指輪の替わりなんだって。二人でペアの時計してるらしいよ。平木君家はお金持ちだもんね。ほら、知らない?平木屋って老舗の和菓子屋さん」
「あ、知ってます。最近百貨店にも売ってる、フルーツ大福とか、有名ですよね」
そっか、林さん、婚約したんだ。
「林さん、おめでとうこざいます」
「ありがとう」
幸せオーラに包まれた林さんを見ていると、私まで幸せな気持ちになってしまう。
ふと土方さんの言葉が頭の中に浮かんだ。
『あいつを大切に思ってくれている奴が側にいるみたいだし。お守り役は卒業だな』
きっと土方さんも喜んでいるに違いない。