少し離れた席から「おめでとう」の声。振り向くと女性が四人座っていて。
「幸せにしてもらいなよ」
花束を抱えた女性が微笑んでいる。
「結婚するのかな。そう言えば、美和も結婚するの。LINEトーク見てるから知ってるでしょう? 私の高校の同級生」
雄大は、眉間にシワをよせ、怪訝な顔を私に向けた。嫌な類の話題が出たと顔にかいてある。そんな雄大を無視して、話を続けた。
「結婚式はグアムの教会で、ロケーションが最高なんだって。後輩の花もハワイだったし、海外で挙式ってのも良いよね。雄大はどう?」
付き合って二年。そろそろ自分たちの将来を考えてもいい頃だと思っていた。だけど雄大は、興味なさそうな顔。首を振り、首の後ろを揉むように手を当て、コキコキと関節を鳴らす。
「お前、結婚したいの? 笑かすなよ。まだ二十六だぞ、俺ら。結婚なんて三十過ぎてから考えればいいんじゃねぇの?」
盛り上がった気持ちは、雄大の一言で一気に急降下。
「もう二十六だよ。早い人なら子供だっている年齢だよ。私だって三十までには子供も生みたいし」
食い下がるものの、雄大は、まるで野良猫を追い払うような仕草で手を振った。
「俺、ガキ好きじゃねぇし。嫁から小遣いもらう生活とか、絶対無理。見ろよ、あれ。安物の服着て。惨めだと思わないか? ああは、なりたくないよな」
バカにしたように子連れの夫婦に指を差す。楽しそうに笑う子供。奥さんも旦那さんも微笑んで円満な家庭に見えるのに、どうしてそんな言い方するの?
目の前のアイスティーのグラスを脇へやり、身を乗りだした。
「生活費は、折半すればいいじゃない。子供も自分の子は、可愛いって聞くよ」
雄大は、アイスコーヒーのグラスを持ち上げ、残りを飲み干した。そしてストローを取り出すと氷を口に含む。ガリガリと口の中で氷の砕ける音。まるで私の思いが砕かれているみたい。
「無理無理。騒がれるとムカつくし、汚いし、本当に嫌いなんだ。結婚なんてずっと先でいい。いや、しなくてもいいくらいだな」
「そうなの?」
ショックを隠し切れなかった。抗議の意を表すような目で雄大を見ると、彼は視線を逸らし窓の外へ向ける。下唇を噛み項垂れると、舌打ちが聞こえた。
「そんな顔すんな、鬱陶しい。俺が嫌なら他の男探せって、いつも言ってんだろ。俺は他にいくらでも代わりが、いるんだからな」
不機嫌な顔で立ちあがり「気が悪い。帰る」とカフェを出て行った。
何がなんでも今すぐ結婚したいわけじゃない。ただ、何かしら約束が欲しい。二年もつきあっているのに。そう思う私は、おかしいのだろうか。
些細なことで雄大が怒ったり、機嫌を損ねて帰って行く、その度に迷いが生じる。このまま付き合っていいのか、綺麗さっぱり別れた方がいいのか。