お母ちゃんは椅子を引き、ユキ君の隣に座った。頬杖ついて彼の顔を遠慮なくまじまじと観察。
「どこでうちの娘と知り合ったの?大学が一緒だった?まさか彼氏だとか言わないわよね」
「お母ちゃん、やめてよ。昨日面接に行った時、お世話になったの。そのお礼にご馳走するって店に誘っただけよ」
焼きソバ炒めながら説明するとお母ちゃんは「なんだ、つまんないわね」と残念そうにつぶやいた。しかし何を思ったのかお母ちゃんは、ずいっとユキ君に顔を近づけて。
「でも、これも出会いだと思わない?」
そんなこと言われても困るって。ほらユキ君も苦笑いしているじゃない。
「ええ、そうですね」
「ああ見えて舞は、男知らずだからね。簡単に落ちるよ」
ユキ君にこそこそ耳打ち。聞こえているって。
「へぇ。舞、彼氏いたことがないのか」
悪かったな。私は無視して焼きそばにソースを掛けた。ジュワーッという音と共に湯気が立ち込める。
「そうなのよ。だから真理さんに紹介してもらった会社で、社内恋愛して結婚する気なのよ。男が出来ない理由を店のせいにするんだから困った子よね」
「お母ちゃんっ」
「ははは、何だそれ。社内恋愛する為に就職したのかよ」
ユキ君は手を叩いて笑っている。バカにして、腹立つな。
「悪い?店で働いていても出会いなんて全然無いんだよ。客のほとんどは家族連れか、おっちゃんかおばちゃんで、独身の男性が一人で来るなんてことは滅多とないんだから」
「なるほど、切実だな。ま、頑張れよ」とユキ君、涙目で言う。言われんでも頑張るっての。
「俺、顔広いし、紹介してやろうか」
「結構、運命の人を探すから必要ないよ」
「ふーん、運命ね」
そう、まだ出会っていないだけで、私にもきっと運命の人がいる。
まだ24だし、これからだもん。就職も決まったんだから、恋人だって出来るはず。
待っててね、運命の人。
第3章へ続く