経理にとって、月末月初の長期なお休みはあまり嬉しくない。きついスケジュール、ひぃひぃ言いながら業務をこなす。
そして明日は仕事納め、定時で会社を出なくてはならない。
そんな訳で、うちのチームの田口さんと二人、残業中。
「もう、終わりそう?」
「はい、あと少しで終わります」
抽出したデータの必要な部分だけを取り込み、加工。その後は、それを見ながら振替伝票をシステムで入力していく。私の隣で、田口さんは明日振り込みする社員精算のチェックしている。
「こっちも、もう終わるよ。ねえ、お腹空かない?」
「ポッキーありますよ。食べます?」
引き出しに入れてある常備菓子の中からいちごポッキーの小袋を取り出し、田口さんに差し出した。
ポリポリ、ポッキーを食べながら。
「こんなんじゃ、足しにもならないなぁ」
「そうですね、余計にお腹空くって言うか・・・」
「ねえ、なんか食べに行こうよ」
珍しい、田口さんから食事誘われるの初めてだ。よっぽどお腹すいてるんだ。
今日は残業で店の片付け出来ないとお母ちゃんに言ってあるし。
「いいですよ」
「もつ鍋の美味しい店みつけたの。トマトクリーム味」
「もつ鍋でトマトクリーム?」
眉間にシワを寄せて聞く私に向かって田口さんが掌をパタパタ。
「それが美味しいんだって。騙されたと思って、食べてみてよ」
「何だ、飯の相談か?」
あ、もう一人、フロアにいたの忘れてた。
「土方さんも、どうですか?」
土方さんは建設新聞を折りたたみ。
「トマトクリームのもつ鍋なんて、美味いのか?」
土方部長も私と同じような疑いの目を田口さんに向ける。
「食べたら分かりますって」
田口さん、どうしてもそれを食べさせたいらしい。本当に美味しいのかな?
「よし。じゃあ、行ってみるか」
「部長の奢りで?」
「そんな時だけ部長か」
「はい」
「しょうがないな。奢ってやるから、早く片付けろ」
「やったあ。ご馳走様です」
田口さんは私の顔見て、小さくピース。
その後は、大急ぎでノートパソコンをシャットダウン、鍵の掛かる引き出しへ。それからゴミを捨て、コートを手にする。
「部長、行きますよーっ」
「ああ」