隅っこへ逃げたいのに、ウサギさんの前しか空いていない。
ウサギさんから出来るだけ離れたい、扉の真ん前を陣取った。が、次の階で人が乗り込んできて、下がる他なく、距離が縮まってしまった。
背中に感じる彼の存在、どうしても意識してしまう。
ああ、もう、食堂フロアまでたった五階下りるだけなのに。なんでこんなに長く思えるの?
やっと食堂フロア到着。ほっと息を吐く。
降りようとすると、誰かが私の腕を掴んで引き止めた。
こんなことをする人は一人しかいない。
真後ろにいる人物だ。
エレベーターから出るタイミングを失い、ビルの外まで連れ出されてしまった。
困惑する私をよそにウサギさんは「焼肉ランチとトンカツ屋、どっち行きたい?」などと笑顔で聞いてくる。
「どっちも行きません」
つんっとそっぽを向いた。
「何が食べたいの? 昼の休憩時間に食べに行くなら近い方がよくないか」
確かに、トンカツ屋と焼肉屋は、横断歩道の向こう側に見えている。
「そうじゃなくて、どうしてこんなことするんですか?」
「飯食いたいから」
真顔でしれっと言う。わざと、とぼけている?