林さんは土方さんを責めるどころか、慰めていていたの?だとしたら林さんの態度は謎だ。土方さんのことを嫌いだって。
「休日になると部屋を訪ねて世話を焼いてくれたり、外へ連れ出そうとしてくれたり、そんな林に甘えていたんだよな。林の気持ちも気づかずに」
「林さんの気持ち?」
「彼女が死んで一年くらいした時か、姉の替わりでいいから自分を見てくれって言われたんだ。俺にとって林は妹同然。それ以上の感情なんて持てないから断った。それからだよ、あんな態度とるようになったのは」
「つまり林さんは、土方さんのことが好きなんですか。振り向いてくれないからって、気を惹こうとして?」
「けど、それももう終わりだ。あいつを大切に思ってくれている奴が側にいるみたいだし。お守り役は卒業だな」
林さんを大切にしている人がいる。知らなかった、同じ会社の人なのかな。
土方さんは目を細めて。
「俺もそろそろ別の相手と幸せになることを考えるよ」
照れくさそうに笑って言った。好きな人がいるんだ。ふと過ったのは、野中課長と三人で飲みに行った時、このあと約束があると言って帰ったこと。もしかしてその相手が。
土方さんはちろりのお酒を全部飲み切ると、熱いお茶を注文。それから〆はリゾットでいいかと私に聞いた。
「ユキを見てると羨ましくなる。あいつは自分の気持ちに素直だろ。あいつを見習って、俺も素直になるよ」
それから土方さんは私に頑張れよと言った。なんのことだろうと首を傾げると。
「聞いてるだろう。潰れた工場の立て直しの責任者に抜擢されたこと。まだ若いし、周囲は自分より一回り、二回り上のおっさんばかり。生コン業界もロクに知らない若造だ、舐められることは間違いない。苦労するだろう。だから支えてくれる人が必要なんだ」
どこかピンときていない自分がいた。ユキ君の任された責任は重い。私が支えられるのだろうか。でも彼も不安なんだろう、だから一緒に暮らそうと言ったのかも。どうしよう、私、まだ決めきれていない。