「この後、どうしますか? 場所変えて、もう少し飲みたいんですけど」
石橋さんの言葉に皆が頷き、加藤さんが馴染みのBARへ電話を掛けてくれた。
「カウンターなら空いてるみたいだ。行くか」
社内では花を無視しているのに、一歩外へ出たら片時も花を自分の側から離さない加藤さん。焼き肉食べていても、石橋さんと会話していても、ちゃんと妻を気遣っている。花が羨ましい。
BARへ向かう道中も花の肩を抱き、時折耳元で何かを囁いている。少し離れて歩きながら、仲睦まじい二人の後ろ姿をぼんやり眺めていた。
雄大は、こんな風に私を大切にしてくれたことがあっただろうか。二人を見ているのが辛くなって、俯き加減に歩いていると。
「大丈夫?」
ハッと我に返った。隣を歩く石橋さんが、心配そうに私を見下ろしている。
「急に元気なくなったみたいに見えるけど」
「そんなことないですよ。ヒールが高すぎて、歩くの疲れただけです」
誤魔化すようにニコッと笑って見せる。
「もうすぐお店だけど、我慢出来る? おんぶしてあげようか。それともお姫様抱っこがいい?」
両手を広げ、おいでおいでをする彼を見て、ついふき出してしまった。
「歩けますよ。石橋さんて、女性を甘やかすタイプですね」
「そう? 愛ちゃんだから、かもよ」
「もう、冗談ばっかり」
「うーん、本気なんだけどな」
「はいはい、ありがとうございます」
気遣ってくれているだけだよね、多分。いちいち真に受けていたらダメだよ、愛子。でも、こっそり喜ぶくらいなら、別にいいよね。
「加藤さん、奥さんが可愛いのは分かりましたけど、もう少し独り身の俺を気遣ってくださいよ」
BARのカウンターへ座った途端、耐えられないとおしぼり手にしながら石橋さんがぼやいた。
「お前もさっさと結婚すればいいんだよ」
「痛いところをついてくれますね」
「いるんだろ?」
石橋さんはカウンターに肘を置き、耳の後ろを指でかきながら「加藤さんて、本当良い性格してますよね」と苦笑い。
「いればとっくに結婚してますよ」
相手がいないと言う彼の言葉に、ちょっぴり嬉しくなって心の中でニヤついてしまった。やだ、私。何で喜んでいるのよ。プルプルと軽く首を横に振って、自分を叱った。