「愛さん、ヤバイです。時間がっ」
時計を見れば、七時を過ぎている。
時間まで少し余裕があるからと、雑貨店をのぞいた私たちは慌てて駅近くのレストランビルの焼肉屋へ向かった。
結局十分の遅刻。個室に加藤さんの姿が見える。彼は、花を見た途端、満面の笑みを浮かべ。
「遅かったな、迷子になっていたのか」
「ごめんなさい、時間があると思って、雑貨店寄っていたから」
「そんなことだろうと思ったよ。適当に注文しておいたから、飲み物だけ決めろよ」
会社で見る加藤さんとあまりにもギャップがあって、私は驚いてしまった。この人、笑うんだ、って。しかも「迷子」なんて軽い冗談まで。雄大なら、とっくに切れているよ。
ああ、ますます落ち込む。来るんじゃなかった。
「遅くなって、すみません」
背後から男性の声がして振り向いた。
「お疲れ」
「いやあ。参りましたよ。加瀬さん、話長いんですよ。なかなか解放してもらえなくて」
スーツの上着を脱ぎ、加藤さんの真向かいに座った。この顔、どこかで見たような気がする。そうだ、カフェで隣に座っていたサラリーマン。思わず後ずさり。
「どうしたんですか、愛さん。早く座って飲み物頼みましょうよ」
「あ、うん」
雄大とのやりとりを見られていたと思うと、なんとなく居心地が悪い。ちらちらと隣の彼を見る。目が合い、軽く微笑んでドリンクメニューを手渡してくれた。私のことは覚えていないみたい。そうだよね、見ず知らずのカップルの会話なんて、いちいち気にしないよね。