あれから、何度かLINEやメールで「ごめんね」のメッセージを送ってみたが、雄大からの連絡はない。電話をしても留守電で。そんなに怒らせるようなこと言ったのかな。
結婚を考えていない男に「結婚して」と迫ると逃げられた、なんて話はよく聞く。雄大も同じかもしれない。私を避けているのかも。
この先、どれだけ付きあっても雄大とは結婚出来ない気がしてきた。結婚願望の無い男に支配されたまま、だらだら付きあう意味はあるのだろうか。
『別れよう』
その時は、本気でそう思ったから。でもすぐに後悔した。LINEで別れようなんて、流石にまずかったかな。
「愛さん、愛さん?」
机を並べて仕事する後輩、花の声にハッとする。
「な、何?」
「そろそろお昼に行きましょうって声掛けたんですけど。ぼんやりしてどうしたんですか?」
彼女の左手薬指の結婚指輪がキラリ。こうやって周囲は確実に幸せを掴んでいるのに、どうして私だけ悩まなきゃいけないのだろう。
「ねぇ、皆が羨む男と結婚して幸せ?」
バカな事を聞いてしまった。新婚ほやほやだよ、彼女。幸せに決まっているじゃない。花は返答に困っている。幸せな人を見て妬ましく思うなんて、私、人間小っさ。ああ、自己嫌悪。
「ゴメン、今の忘れて」
彼女の言葉を待たず、打ち切るように手を軽く上げた。
なのに花は「の、飲みに行きませんか」なんて言う。うわーっ、後輩に気を遣われているよ、私。こめかみに指を当てぐりぐり回した。
「ありがとう、でもやめとく」
そんな気分じゃないし。
「そう言わずに、行きましょうよ。加藤さんとの食事に今夜、先輩たちを誘うように言われてるんです」
向かいに座っている樹里に「どうする」とやる気のない声で聞くと。
「ごめーん、行きたいけど、今日、用事あるの。また今度誘って」
「愛さん、焼き肉ですよ。お肉好きでしょう」
確かに好きだよ、焼き肉、サムギョプサル、ホルモン焼き。想像するだけでヨダレがでちゃうほど。でも、新婚の二人と一緒に食事って、今の私にはちょっと辛いんだよね。天秤に測っていると。
「行きましょうよ、ね、ね」
珍しく、しつこく誘ってくるな。行くって言うまで食いさがるつもり? まぁ、せっかくの週末なのに予定もないし、帰っても一人だし。
「じゃあ、行こうかな」
渋々OK。
花の夫の加藤さんは、企業向けのシステム開発や管理を請け負う会社で働く、システムエンジニア。うちの担当として常勤している。無愛想なんだけど、見た目がかっこ良くて、社内の女子社員の憧れの存在だ。そんな男を見事落としたのが、まさか同じ部署の後輩とは、さすがに驚いたけど。
加藤さんと飲みに行く、滅多とないお誘いだし、花も一緒なら雄大も文句言わないだろう。