駅前ファッションビル一階に広々としたカフェがある。入口には、オレンジ色の大きなかぼちゃがディスプレイされ、スタンド黒板には、メニューと共に白いお化けが描かれている。あちこちで見かける風景。ここもハロウィンを盛り上げているんだ。ぼんやり思いながら店内へ足を踏み入れた。
待ち合わせは午後二時。かれこれ三十分は過ぎている。
一人で待っていると、つい周囲を観察してしまう。参考書を広げて勉強しているのは高校生かな。隣の席でノートパソコン広げて、カタカタやっているスーツ姿の男性は仕事中? 三十歳くらいかな。それにしても端整な顔立ち。ひゃっ、目が合っちゃった。咄嗟に目を逸らし、ドキドギする胸に手を置いた。じろじろ見やがって、なんて思われたかも。
四十分が過ぎた頃、待ち合わせの相手がやって来た。悪びれた様子もなく、当たり前のように目の前に座って。
「なんでまだ、こんなに暑いんだよ」
自分の着ているシャツの胸元をつまんでパタパタと風を送っている。アイスコーヒーの入ったグラスを手に取りストローを咥え、半分ほど一気飲み、テーブルへ戻した。そして体を横向け、足を組むと自分のスマホを弄りだす。
画面を見ながらニヤニヤして、小声で「あほかよ」と呟いている。そうかと思ったら、今度はスマホのカメラ機能を鏡代わりに自分の髪型をチェック。
指で髪をつまんで手直し、角度をかえながら「せっかく決めてきたのに」なんてぼやいている。
一ヶ月ぶりに会うのに、私への関心がまるで無いと思えるような態度。だったら連絡してこなければいいのに。私は頬杖ついて、窓の外へ視線を向けた。
腕を組んだり、手を繋いだりして歩くカップルを見ると羨ましくなる。
付き合っている男女が、街のカフェで一緒に過ごす。世間では、これを一般的にデートと呼ぶのかもしれない。でも私にとってこの時間は、本当にデートと呼べるのか。
疑問だ。