ユキ君は何故か驚いた表情で、こっちへ移ってきた。そして私の両肩をつかみ揺さぶった。
「なんで、俺が嫌い?」
「そうじゃないけど」
その逆だから、なんて言えるわけがない。
「だったら、なんでそんなこと言うんだよ」
「彼女に悪いから」
私は泣きたい気持ちを隠し、笑って見せた。
「これ降りたらデートも終わりね。ほら、乗ったんだから、景色楽しもうよ」
外に顔を向けようとした途端、ユキ君が私のうなじに手を回し、唇を押しつけてきた。
「んっ。・・・・・ゆっ」
言葉を遮るように重ねられた唇から生温かいものが滑り込んできた瞬間、体が硬直。口の中に侵入してきたのは紛れもなくユキ君の舌。
「や・・・・」
押しのけようとしてもビクともしない。
もう限界。
ガリッ。ユキ君の舌を噛んだ。
「痛っ。噛まれるとは思わなかった」
ユキ君の腕から解放された私は逃げるようにシートを移動。唇を手の甲で拭い、立ち上がろうとするユキ君を睨み付ける。
「何考えてんのよ、彼女がいるくせにこんなことして。酷いよ」
いくら借りを返す為でも割り切れないよ。
「あんたなんかに助けてもらうんじゃなかった。あのまま朝まで駅にいれば良かった」
頬に温かいものが伝い、ポタリ、滴がスカートに落ちる。
「・・・れた」
「えっ」
「俺、もうフリーだよ。舞が乗り過ごしたあの日、彼女たちと別れたんだ」