入社して一ヶ月になろうとしていた。今日は体調不良で休んでいる三島さんから仕事を頼まれて、珍しく残業することに。
抽出したデータを加工、あとはメールにリンク先貼って部長と課長に送信、と。
「ひーっ、やっと終わった、もう帰るーっ」
ノートパソコンを閉じ、ぐったり。間違ってないよね、桁違いな数字だから、合っているのか、間違っているのか分からない。来週朝早出勤して、もう一度見直す方が良いかな。なんて思いながらゴミ箱に捨てた紙をシュレッターしていると誰かの話し声が聞こえてきた。
「尾上さん、まだいたのか」
「ダメだよ、こんな遅くまでいたら」
ミーティングに行っていた土方部長と野中課長だ。
「残業の事前申請はしたのか?」
ボックスがいっぱいになり、シュレッターが停止、赤ランプが点滅している。
「あ、はい。ちょっとやらなきゃいけない事があったので。でも、もう終わって、片付けしているところです」
前扉を開け、切り刻まれた紙を上からギューギュー押しながら返事をする。
「早く帰れよ」
「はい」
「土方さん、飯行きません?今日、嫁がいなくて一人なんですよ」
「いいよ。どこ行く」
二人共帰り支度を始めている。私も早くフロアを出なきゃ。バタバタしていると。
「尾上さんも一緒にどう?」
「えっ」
「もう7時半だよ。お腹空いてるだろう。飯、行こうよ」
野中課長のお誘いにちょっと考えてしまった。だって、部長と課長と三人でしょう。
「大丈夫、会社出たら仕事の話なんてしないし、ちょっとだけ行こうよ」
野中課長は、別の部署なので普段話をする機会もない。二人っきりならパスって言うんだけど、土方さんもいるし、行ってもいいかな。
「じゃあ、少しだけ」
「知り合いがオープンしたばかりの店なんですが、そこでも良いですか?」
「任せるよ」