少しばかり強引な気もするが、悪い奴ではなさそうだ。どちらかと言えば良い人かも。
車がスロープを上りきったところで。
「ねぇ、ユキさん」
声を掛けてみる。
苗字なのか名前なのかは知らないが、LINEの名前もユキだったし、部長もユキと呼んでいたし、別にいいよね。
「ユキ君でいいよ」
「いや、それはダメでしょう。先輩だもん」
「俺、年下だよ。舞より二つ下」
年下のくせに呼び捨てか。
「どうして私が年上だって分かったの?」
トイレの前で呼び捨てされた時は気づかなかったが、よく考えたらLINEを見れば名前は簡単に分かってしまう。でも年齢までは分からないはずなんだけど。
「メールアドレス。maimaiのあと数字が並んでいたから」
あ、なるほど。私はぽんと手を合わせた。そういえば名前だけではアドレス登録出来なくて、生年月日を追加したんだった。メールなんて滅多と使わないからすっかり忘れていた。それより聞きたいのは名前のことでも年齢のことでもない。
「実は私、簡単な面接だけで採用されたの。部長に聞いたら真理さんの紹介だから断れないって。知っていたら教えてほしいんだけど、真理さんて何者?」
「真理の紹介で来たのに、知らないってか?」
信じられないと言わんばかりの口調。だけど。
「うん、知らない」
そう言うしかない。だって、本当に知らないのだから。私の母親と真理さんの奥さんが知り合いだと説明すると、納得したのかユキ君は「ああ」と頷き「後継ぎだよ」と続けた。後継ぎ、つまりそれって・・・。
「社長になるの?」
「多分な」