三月も、もう中旬。この三週間、電話がほとんど掛かってこない。毎朝、LINEで「おはよう」を交わすのも、いつも私が先だったりする。
忙しいんだろうな、きっと大変なんだろうな、と思うけど、本当の意味で彼の大変さは私には分らなくて。
会えないことにイライラしたり、落ちこんだり、もやもやしたり、元気だけが取り柄なのに、全然元気じゃなかったりする。
離れている時間が増えると、心も離れていったりするのかな。
ユキ君から同棲はもういいって言われてから、寂しい気持ちが倍増しているかも。
そして不安な気持ちを抱える私に先輩二人が追い打ちをかけてきた。
「心配じゃないの? その川本って女、北工場にいるんでしょう。ユキ君を誘惑しないとも限らないんじゃ」
「結婚しているんですよ」
「だから、なに? 大丈夫だって言いたいの? 甘いわよ」
林さんは真顔で身を乗り出し。
「いま時、不倫なんて珍しくないわよ。だいたいその女、ユキ君のファンなんでしょう?」
ひそひそ声なのに、どこか力がこもっていて、思わずたじろいでしまった。
「飲みに行きましょう、なんて誘ってくるかも」
「大丈夫だと思います。昼間はずっと出っ放しで工場にはいないって言ってたし、北工場も三月までだし、そこはユキ君を信じてますから」