私と花を挟んで加藤さんと会話をする石橋さんの腕が私の肩に触れている。体温を感じるほど密着して、緊張。
「こういうのは、縁だからな」
花を見下ろす加藤さんの視線が熱い。溢れんばかりの愛情が伝わってくる。くーっ、羨ましいよ、花。なのにあんたは欠伸を噛み殺して、気づいてないなんて。全く、ランチを一緒にしてくれないと、いつもぼやいているけど、加藤さんはあんたをすごく愛しているよ。贅沢だよ、花。
「本当は、もう現れているんじゃないのか」
クッと加藤さんが含み笑いをする。
「加藤さんの性格の悪さは、俺の中でダントツ一位ですよ」
「そうか?」
「そう思うよね、愛ちゃん」
「えっ」
背中を軽く撫でられた気がした。驚いて彼に顔を向ける。こんな綺麗な顔して間近で微笑まないで。ドキドキするから。
今夜の私は、どう考えてもおかしい。石橋さんに意識しまくってる。あんた、いったいどうしたのよ。ねぇ、愛子。自分でも分からない感情が胸の奥で騒いでいる。
酔ったのか、瞼を重そうにしている花を見て、加藤さんは「あー、こいつダメだな」と頭を撫で「大丈夫か」と言いながら肩を抱き寄せた。
「んー、凌駕さん。眠いです」
「腹いっぱい食べて、酒飲んだら眠いって、お前は子供かよ」
顔は完全に笑っている。彼女が可愛いくて仕方ないって、側から見ても手に取れるほど伝わってくる。こんな二人を見るとどうしても自分と比べて落ちこんでしまう。
愛されたい。愛したい。
私と雄大の間に、愛はあるのかな。分かっているのは恋人としての関係が二年続いた、それだけ。
「立てるか?」
足元もおぼつかない花は、立ったまま加藤さんにしなだれかかって、半分寝ている。
「野口さん、どうする? 一緒に帰るなら、タクシーで送るけど」
チラッと石橋さんを見ながら加藤さんが聞く。時計を見れば十時半を少し過ぎたところだった。スマホを見ても雄大からは、何の連絡もない。もう少し飲みたい。
「大丈夫です。適当に切り上げて帰りますから」
「悪いな、石橋。引っ越す時は手伝いに行くから」
「ありがとうございます。遠慮なく、お願いしますよ。お疲れ様でした」