「彼の考えていることは分からないけど。付きあっていると良い時も悪い時もあるし、迷うこともあるよね。好きだって気持ちも何かの拍子に突然冷めたり、また燃え上がったり」
燃え上がる。そんな感情、雄大にもったことあったっけ? 合コンで知り合った日に、「俺にしとけよ」って強引に交際が始まった。
最初は、押しが強くて、命令口調で、支配欲の強い彼が、男らしく見えた。でも最近は、自分本位な性格にうんざりしている自分がいて、本当にこのまま関係を続けていいのか、迷っている。
「石橋さんは、結婚を考えたことありますか」
「俺? んー、どうかな。真っ暗な部屋に帰ると妙に空しくなって、ふと家に誰かいてくれたらって思うことはあるけど。愛ちゃんは、今の彼と結婚したいの?」
「二年も付き合ってきたんですよ。結婚だって考えますよ、普通に」
「会った瞬間に結婚意識することもあれば、十年つきあっても結婚に辿り着かないこともある。年数じゃないと思うよ」
石橋さんが左右の掌を合わせ、自分の口元へ持っていくのを視線で追った。結構彫が深いんだな。まつ毛も長いし。ほんと綺麗な顔しているよね。横顔にぼーっと見惚れていると、石橋さんが、こちらに顔を向けた。
「真剣な話していたのに、今、違うこと考えていただろ」
「うっ。すみません」
「彼氏のことでも考えていたのかな?」
「えっ、あ・・・いえ。そうじゃなくて。知り合ったばかりで、私の相談にのってくれて、良い人だなって」
見惚れていました、なんて言えなくて。誤魔化すように答えると、彼は目を細めて微笑んだ。
「良い人って、褒め言葉じゃないんだけどね。まぁ、いいや。愛ちゃんの相談ならいつでも聞いてあげるよ。連絡先、交換しようか」
石橋さんがポケットからスマホを取りだした。連絡先交換、ということは当然アドレスを登録するわけで。そうなると雄大から何を言われるか分からない。
「ごめんなさい。彼が私のスマホをチェックするんです。私のスケジュールとか、連絡先に登録している相手とかLINEやメールのやりとりとか、全部見られちゃうから」
「じゃあ。こうするのはどう?」