恋の時間ですよ 第9章 君の体にメロメロ

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女将さんたちが部屋を出て行って、二人っきり。向かいでお茶をすするユキ君をチラ見、今しかない。

「ユキ君、相談があるの」

「なに、あらたまって」

部屋をぐるり見回してから、身を乗り出した。

「ここ、高そうだね。いくらするの?」

ユキ君は目を丸くさせ、いきなりなにを言い出すんだって顔をする。マズったかな、高そうは余計だったか。いくらするのってサラッと聞くべきだった?

「ええっと、へんな意味じゃなくて」

「じゃあ、どういう意味?」

せっかく二人で旅行しているのに、旅館の値段を気にするなんて、けち臭いと思われたかな。でも見栄を張ってもしかたない。正直に言わないと。

「実は、その・・・。まさかこんな立派な旅館に泊まるなんて思ってなくて、持ち合わせが・・・・」

おずおずと財布から全財産、諭吉を三枚取り出してしょぼい扇にして見せる。うぎゃっ、ユキ君の不機嫌そうな顔、足りる訳ねぇだろって言いたいのかな。そうだよね、絶対足りないよね。あの蟹一匹だけでこの諭吉が消えちゃうかも。釣り竿手にした諭吉が三人、蟹の甲羅に乗っ飛んでいくのが見えた。

「大丈夫。今回は、ちゃんと銀行のカード持ってきたんだよ。足りない分は明日コンビニでおろして返すから」

「舞」

言いたいことは分かってる。待って、と私はユキ君に広げた掌を見せた。

「マリンワールドの入場料も、だよね。分かってる。けど、今はこれしかないの。ごめん、貸しといて」

諭吉を差し出すと。

「いらねぇよ。つーか、もらえねぇよ」

押し返されてしまった。いらないって、まさか全部ユキ君が払うつもり?

「ダメだよ。お互い働いている訳だし、ちゃんと割り勘にしよう。ここまで来るのにガソリン代とか高速代とか掛かってるし、年下のユキ君に全部払わせる訳にはいかないよ」

「年下は、関係ないだろ。いいからもう金、しまえよ」

「ユキ君」

「いらねぇってんだろ」

不機嫌な顔にちょっと怯みそうになる。でも、ハイそうですかって引き下がれない。

「受け取ってくれないなら、帰る」

「は?」

ひゅーっと冷たい風が二人の間をすり抜けていった。

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