海遊館は大きな水槽の周りをくるくる回って降りてくるような構造になっている。
「タカアシ蟹って食べられるの?美味しいのかな」
「食えるよ。でも、あしが早くて味が変わるから、冷凍出来ないんだよ。さばきたては、美味いって聞くけど」
「そうか、だからタカアシガニって言うんだ」
「は?」
「足が早い。アシガハヤイカニ。アシガニ。タカアシガニーッ」
「くっくっ、それかなり無理やりだな」
「そうかな」
暗い館内、水槽を照らす光。私たちの姿がぼんやりガラスに映っていて、ユキ君の陰が重なった。頭にキスされたような気がしたけど。見上げたら「あれ見て、食べること考えてるの舞だけじゃね?」って笑っている。
やっぱり気のせい、だよね。
クラゲのコーナー、ってことはもうすぐ出口。まだ終わって欲しくない気もする。それって、ここがすごく楽しかったから。それとも・・・・。
「わぁ・・・・家で飼えないかな」
水中をふわふわ、透明なクラゲがライトに照らされて綺麗だな。
「飼育が難しいぞ」
「そうなんだ。じゃあ、無理だね。高校の修学旅行で買ってきたマリモも育たなかったし」
水槽を見ている二人の顔が近くて、ドキッとした。
「で、出ようか」
「ああ」
外へ出れば、もう夕方で。
「すげ・・・真っ赤」
「うん」
薄く広がった雲が茜色に染まっている。ユキ君と手を繋いで見上げた空は、今まで見た中で一番綺麗で、それでいて切なくて。
「観覧車も乗ってみないか?」
どうして楽しいのか、どうして空がこんなに綺麗だと思えたのか、今、分かった。
「うん」
私、ユキ君が好きなんだ。