耳を疑った。ちょ、ちょ、ちょ、ちょっと待て。どういうことよ、それ。彼女?彼女がいたの?
グイッと腕を伸ばしユキ君を突き飛ばす。と言っても押した私の方が後ろへ引きさがっていたけど。
「ふっ、ふざけんなーっ」
怒りにまかせ、私は声を荒げる。
「あんたねー、彼女がいるくせに、何で私に抱きついているのよ。もう最低ーっ」
ちょっとでもこいつにドキドキした私があほだった。
「可愛くて、抱きしめただけだろ。それの何が悪い?」
「悪いわっ。自分の彼氏が他で別の女と抱き合っているなんて知ったら、彼女だって怒るよ」
「怒らねぇよ。だからいいだろ」
信じられない、マジで言っているのか?
「じゃあ、あんたは?彼女が他の男と抱き合っていたらどうするのよ」
「別に。彼女はそいつだけじゃないから」
「は?まさか何人もいるとか言う?」
「そんなたくさんはいないぞ。俺も忙しいから」
と言って指を三本立てた。こ、こいつ・・・・・・。グーでなぐってやりたい。唇を噛み、掌をギュッと握りしめる。
「なぁ、何で舞が怒ってんのか、よく分かんねぇんだけど?」
とぼけたことを真顔で言われ、ブチ切れ。
「あんたがこんな最低の奴だと思わなかった。もう二度と私に近づくなっ」
ふざけんな、ふざけんな。
「あ、おい。待てよ、舞」
無視だ、無視。私を呼び止めようとするユキ君を放って、家まで走って帰った。
もしかしてユキ君は、私のこと好きなんじゃないかって、心のどこかで思っていた。
一瞬でもそんなことを考えた自分が恥ずかしい。
悔しくて、悲しくて―――――
頬に伝わる涙を拭った。
第5章へ続く