「そう、小さな子供って目を離すとどこへ行くか分かんないだろ」
繋いだ手と反対の腕を伸ばし、私の背中に回した。
「だからこうやって手を繋いだり、抱きしめたりしていないと心配で」
えっ?
私の頬に、ユキ君の唇が触れている?
まさか、これも小さな子供扱いしているからだと言うつもりか。ジタバタしてみたが、鋼鉄に押さえつけられたみたいにビクともしない。
ダメだ、体格の差があり過ぎ。二人の顔の間に手を挟み、阻止、ユキ君を睨み付けた。
「何すんの」
「舞が可愛いから、したくなった」
「したくなった、じゃないっ」
「怒った顔も可愛いな」
甘い笑顔にキュン。しかも怒った顔も可愛いなんて言われたら・・・・。
心臓が壊れちゃいそうなくらい早鐘を打っている。ドキドキがとまらない。だけど、それを彼に知られたくなくて、私は彼の腕の中でもがいていた。
「ユキ君、ちょっと、もうやめて・・・・」
掌にバイブの振動が伝わってきた。チッと舌打ちしながらスマホを胸ポケットから取り出すユキ君。
「何?」
冷たい口調にドキッ。思わず息を飲む。こんな話し方もするんだ。
不機嫌そうな表情で、いったい誰と話しているんだろう。
「今、手が離せないんだよ。煩いな、11時には行くって。いちいち電話、掛けてくるな」
頭の上で軽いため息が聞こえた。「せっかく、癒された気分だったのに」なんてぼやく声も。少し怒っているみたいにも見えるけど、でもその人に会いに行くんだよね?
「今の・・・・もしかして、か、彼女だったりして」
当てずっぽうだった。だけどユキ君は一瞬足元を見てから気まずそうな顔で、渋々口を開く。
「彼女って言うか。一応、今、付き合っている女」