「制服着て働いてみたいな」
ぼそっとつぶやくと、隣にいるお母ちゃんが鼻で笑った。豚玉をぽんっとひっくり返し。
「着てるじゃない。店のエプロンを」
私は口を尖らせ、言い返す。
「エプロンじゃなくて、制服だってば」
「そんなにOLがいいかねぇ」
呆れたような口調で言われ、むきになってしまった。
「こんな店で働いていたら結婚も出来ないよ。出会いもないし、土日だって店あるし。美香なんて、もうすぐ子供が生まれるんだよ」
「自分がモテないのを店のせいにする?」
「ちがっ」
「ちょっと、舞ちゃん。結婚したいのかい。それならいい相手がいるよ」
同じ商店街で呉服店を営む松屋の奥さんが話に首を突っ込んできた。
「クリーニング屋の山ちゃんの次男なんだけどね」
「山ちゃんの息子さん?」
お母ちゃんの右肩がピクッと上がった。興味津々の顔に快くしたのか、松屋のおばさんは掌を振り、嬉しそうに喋り出す。
「それがね、最近彼女に振られたらしいのよ。あそこは長男が店を継ぐみたいだし、ちょうどいいじゃない。結婚して二人で店をやれば?」
「長男の嫁は大変だけど、次男なら。ねぇ、舞」
冗談じゃない。同じ商店街の人間なんて、絶対嫌だ。
「離婚した時、面倒だからパス」
「なんだい、結婚もしてないのに離婚だなんて」
声を揃えて言う二人を無視しようと入り口に顔を向けた。ガラスの引き戸が10cmほど開いている。
お客さんかな。私がホールへ出ようとした途端、ガラッと戸が全開になり、女性が一人入って来た。
「良かった、やっぱりここだ」