ユキ君は私の隣へ移動、大きな手が私の手を包む。
「冗談だろ」
半笑いの彼に、真面目な顔を返す。
「本気だよ。デート代は折半。奢られてばかりじゃ気が引けるし、対等な立場でいたいもん」
それにいくら彼が社長の息子でも、社会人になって一年目だよ。そんな高給とりとは思えないし。でもそれを口にするのは避けた。
「対等って・・・」
ため息と一緒に零れた参ったなの言葉。うなじを撫で、頭を左右に振る。
「じゃあ・・・」
渋々、といった感じで人差し指を立ててきた。もちろん私の返事はNO。首を横に振った。ユキ君は自分の指を見つめている。中指がぶるぶる。
「くそっ」
二本の指が目の前に。指じゃなくて片掌を全部開かせなくては、ツンとそっぽを向く。
「舞っ」
私の頬を両手で挟み、のぞき込んでくるユキ君の目は子犬みたい。気持ちが揺らいでしまいそうだ。
「まだ早いし、電車あったよね」
「本気じゃねぇよな?」
私だって帰りたくない。けど、折れる訳にはいかない。ユキ君を引き離す。
「分かった、分かったから」
「分かってくれた?」
納得していない顔が縦にこくり、動いた。でも。
「その代わり、今回だけは男にならせて」