不機嫌な顔したユキ君と玄関へ向かっていると、追いかけてくるスリッパの音。
振り返るとお母さんだった。
その手には小さな紙袋が下げられていて。
「舞ちゃん、これ持って帰って」
「えっ」
「昨日、焼いたパウンドケーキ。常温でも一週間くらい持つし、数日寝かせた方が美味しいから」
「わぁ」
嬉しい、飛びついてしまった。
ああ、お母さん、本当に良い人だ。こんなはた迷惑な娘を泊めて、朝ご飯まで食べさせてくれた上に、お土産までくれるなんて。
もう、感動としか言いようがない。
「色々、ありがとうございます」
「じゃあ、今度はケーキ作りでね」
「はい」
「由紀がいない時でもいいのよ」
「ありがとうございます」
お母さんの笑顔に胸がキュン。ああ、この夫婦って、かなりヤバイ。一緒にいたらキュン死しちゃうかも。
手を振るお母さんに見送られ、結城家の玄関を出た。
この家に入るまでは、ものすごく高い塀だと思って近寄ることを恐れていたのに。
ほんわかした温かい家だったな。
車の助手席のドアを掴んだまま、ユキ君が「噛む?」と舌を出して見せる。
クスッと笑って返すと。
眩しい笑顔と、甘いキスが落ちてきた。
ユキ君、ここ、お家の駐車場だよ。