舞と泊まりかけのデートだって日に、まさか親父から異動話が出るなんて。
「うわぁーっ、海っぺらに水族館があるんだ。冬の日本海って迫力ーっ」
波しぶきを見てはしゃぐ声にハッとした。今は異動のことを考えるのはよそう。
「風が冷たいな」
十二月、海辺の水族館は寒い。だが、二人でいればそれも気にならない。むしろ、嬉しいくらいだ。だってよ、舞が寒い寒いって俺にしがみついてくれるんだから。
「ふっ?」
「どうしたの?」
「いや、なんでもない。トドのダイビングが始まるみたいだから、それを見ようか」
「うん」
岩の上からトドがプールへダイブすれば、水しぶきと歓声が湧きあがり、俺の隣で舞も手を叩いて喜んでいる。正直、また水族館?なんて思われないかちょっと心配だったけど。
「ペンギンの散歩だって。ほら見て、可愛いーっ」
楽しそうにしている彼女を見て、ほっとした。
「アジ釣りやってみないか?料理もしてくれるんだって」
「やる、やる」
竿を借りて、アジ釣り体験。これが、結構難しい。すぐ糸が切れるんだ。どうにかお互い二匹づつ釣り上げて、天ぷらにしてもらった。
熱々の天ぷらを寒空の下で食っていると、テーブルに置いたスマホが鳴る。画面には「真理」の名前。
「なに?」
「どこにいるんだよ」
その声は、真理ではなく。
「薫か」
真ん中の兄貴、薫だった。
「来てんだろ?水族館」
「もちろん、来てるよ。城之崎マリンワールドに」
「は?なんで、城之崎なんだ」