恋の時間ですよ 第8章 異動

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それにしても、こんだけON・OFFの切り替えが激しい人間もいないよな。珈琲を飲みながら親父を観察。
会社にいる親父はまるで獰猛な虎。睨まれるとどんな男もビビってしまう。だが家の中では、嫁に甘いただの男。お袋にベタベタする親父を会社の人間が見たら、きっと驚くだろう。

「いい歳して、朝からいちゃいちゃとか、やめてくれない?」

「うるせぇ、嫁を可愛がって何が悪い」

どんだけ、お袋が好きなんだよ。心の中でツッコミを入れる。うっかり口に出せば、惚気を聞かされるだけ。今日はそんなことに構っている時間はない。

「ところで、由紀。真理に聞いたが」

ドキッ。

「な、なに」

真理の奴、舞が原因で熱を出したなんてカッコ悪い話、してねぇだろうな。

「仕事、頑張ってるらしいな」

ほっ。そっちか。

「まあね。俺も真理や薫みたいにもっと頑張らないとってね」

舞に遊んでると思われたくないからな。

「そうか。だったら工場行って現場体験してみるか」

「えっ」

持っていたパンをぽろりと落としてしまった。親父は、至って真面目な顔をしている。

「俺に、生コン屋の仕事を覚えろって言うのか」

「ああ。生温い本社で働くより、ずっと面白いぞ」

生コン工場・・・。
真理も数年前、南工場で営業をしていた。今は真理と入れ替わってすぐ上の兄貴、薫が南工場にいる。当然、俺にも経験しろってことなんだろうけど。

「生コン屋は薫が仕切ってんだろ。俺が行く必要あんの?」

「現場を知ることは大事だ。お前のためにもなる」

「それって、今すぐ?」

親父の冷ややかな視線が痛い。

「俺の息子に根性無しがいるとは思わなかった」

バカにされた?カッときた俺は。

「行かねぇとは、言ってないだろ」

親父に向かって啖呵を切ってしまった。

「結城家の三男坊が兄弟の中で、一番根性があるって証明したらぁ」

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