それにしても、こんだけON・OFFの切り替えが激しい人間もいないよな。珈琲を飲みながら親父を観察。
会社にいる親父はまるで獰猛な虎。睨まれるとどんな男もビビってしまう。だが家の中では、嫁に甘いただの男。お袋にベタベタする親父を会社の人間が見たら、きっと驚くだろう。
「いい歳して、朝からいちゃいちゃとか、やめてくれない?」
「うるせぇ、嫁を可愛がって何が悪い」
どんだけ、お袋が好きなんだよ。心の中でツッコミを入れる。うっかり口に出せば、惚気を聞かされるだけ。今日はそんなことに構っている時間はない。
「ところで、由紀。真理に聞いたが」
ドキッ。
「な、なに」
真理の奴、舞が原因で熱を出したなんてカッコ悪い話、してねぇだろうな。
「仕事、頑張ってるらしいな」
ほっ。そっちか。
「まあね。俺も真理や薫みたいにもっと頑張らないとってね」
舞に遊んでると思われたくないからな。
「そうか。だったら工場行って現場体験してみるか」
「えっ」
持っていたパンをぽろりと落としてしまった。親父は、至って真面目な顔をしている。
「俺に、生コン屋の仕事を覚えろって言うのか」
「ああ。生温い本社で働くより、ずっと面白いぞ」
生コン工場・・・。
真理も数年前、南工場で営業をしていた。今は真理と入れ替わってすぐ上の兄貴、薫が南工場にいる。当然、俺にも経験しろってことなんだろうけど。
「生コン屋は薫が仕切ってんだろ。俺が行く必要あんの?」
「現場を知ることは大事だ。お前のためにもなる」
「それって、今すぐ?」
親父の冷ややかな視線が痛い。
「俺の息子に根性無しがいるとは思わなかった」
バカにされた?カッときた俺は。
「行かねぇとは、言ってないだろ」
親父に向かって啖呵を切ってしまった。
「結城家の三男坊が兄弟の中で、一番根性があるって証明したらぁ」