恋の時間ですよ 第8章 異動

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土曜日、五時に目が覚めた。外はまだ暗い。舞との約束の時間まで、まだ三時間もある。どんだけ、張り切ってんだよ俺は。
もう少し寝るか、ということで二度寝。次に目が覚めたら、七時前。窓の外をのぞけば、青空が広がっていた。

「よっしゃ、いい天気だ」

服を着替え、顔を洗ってからキッチンをのぞく。いい匂いだ、お袋がパンを焼いているんだな。

「おはよう」

「あら、早いのね。もう出掛けるの?」

「ああ。今日は帰らないから」

「朝ごはんは?」

「食べて行くよ」

「奈美」

腹減ったと言いながら親父がキッチンへ入って来た。ラフな装いからして、朝からゴルフの打ちっぱなしに行ってきたんだな。

「いい匂いさせてんな」

「今日はね、カボチャとほうれん草のパンを焼いてみたの」

親父が、お袋の腰に腕を回した。

「美味そうだ」

「でしょう」

ふふんと笑うお袋の顎に指を掛け、親父が唇にキスをした。

「ちょっ、一久」

「朝の挨拶がまだだろ」

「もう」

ぷくっと頬を膨らませているお袋に「今日も可愛いな」なんて、いい年して照れもなく言う。親父がお袋にベタベタするのは、いつものこと。うちでは、これが普通。
チビの頃、俺たちもこんな親父の愛情表現を体で受けてきた。どんだけキスされきたか、どんだけ抱きしめられてきたか分からないほどだ。

キスや抱きしめたりするのはお前らが可愛いからで、これは子供への愛情表現だ。親父にそうすり込まれてきたせいで、俺は舞に対する気持ちを勘違いしてしまった。
でも今なら、ちゃんと分かる。舞が可愛くて、愛しくて仕方ないのは彼女に恋しているからだと。

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