仕事が終って家に帰れば、店の片付けが待っている。
服を着替え、一息つく間もなく店へ降りた。
「忙しかった?」
「そうでもないよ」
お母ちゃんは「平日だからね、店に来るのは常連客くらいだよ」と笑ってつけ加えた。
私が食器やグラスを棚へ並べ、テーブルを拭き、床の掃除をしている間にお母ちゃんは晩御飯の支度。
掃除が終わり、居間へ行くといい匂いがする。今夜は肉ジャガと昨夜のおでんの残り物。
丸い卓袱台にお母ちゃんと向かい合って座った。
「頂きます」
ほくほくしたジャガイモが口の中でほろりと崩れる。味の染みたお肉や糸こんにゃく。うーん、ご飯おかわりしようかな、なんて迷いつつ、商店街の漬物店丸井さんのべったら漬をぽりぽり。
お腹いっぱいになって部屋へ戻った私はごろりとベッドへ転がった。手繰り寄せた枕を頭の下に入れ、手にしたスマホをじっと見つめる。
真理さんの頼みごと。
意味が分からん。
兄弟なのに自分で言えるでしょう、と思ったけど引き受けてしまった。優しい微笑み、優しい口調、だけど押しの強さを感じて断れなかったのだ。
「頼まれて電話するだけなんだから」
自分に言い訳してからLINEのアイコンをタップ。トークメンバーの中から奴の名前を検索し、電話マークにそっと触れた。